NTDsによる健康被害

<地域別に見たNTDsの疾病負荷>

上のグラフは、NTDsによって失われた障害調整生命年(DALYs)の2017年の推計値を、世界銀行が分類する地域ごとに比較したものです。ここでは、NTDsのうち、DALYsが計算されている16疾患のみのデータを示しています。サブサハラ・アフリカにおいて集団投薬プログラムが進んでいる疾病(河川盲目症、住血吸虫症、リンパ系フィラリア症、土壌伝播寄生虫症およびトラコーマ)が占める疾病負荷が大きいことが読み取れます。一方、アジア・太平洋州一帯において、疥癬やデング熱、吸虫類感染症が占める負荷が大きいことも見逃せません。

出典:GBD Results tool: Global Burden of Disease Study 2017 (GBD 2017) Results. Seattle, United States: Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME), 2018. Available from this permalink

<世界にどれだけのマイナスのインパクトがあるのか>

  • 世界銀行(2017年)によると、NTD全体で2200万Disability-adjusted life years (DALYs)の損失が2012年にあったとされ、これは世界全体のDALYs損失の1%になる*1。低所得国に限ってみれば、NTD13疾患のDALYs損失は全体のDALYs 損失の1.32%になる(GLOBAL HEALTH ESTIMATES 2016から算出)*2
  • ロンドン宣言(2012年)にあるNTD対策が成功裏になされた場合、2015年~2030年の間に5億1900万DALYsの損失を防ぐことが出来ると推計される*1
  • NTDの終焉により、2011年から2030年の間に6,220億ドルの個人の収入損失を防ぐことが出来ると推計される*1

*1:Holmes, King K.; Bertozzi, Stefano; Bloom, Barry R.; Jha, Prabhat. 2017. Disease Control Priorities, Third Edition: Volume 6. Major Infectious Diseases. Washington, DC: World Bank. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/28659

*2:WHO, Health statistics and information systems, Disease burden and mortality estimates
Disease burden and mortality estimates

<NTDの投資効果>

NTDsで最も感染者の多い土壌伝播寄生虫症や住血吸虫症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症などは発達障害や身体障碍を引き起こし、労働生産性の低下を引き起こします。また、子どもがり患した場合、両親は世話をするために仕事を休まなければならず、治療のための出費もかさんで家計をひっ迫し、貧困のサイクルを加速させるといえます。NTDs制圧プログラムへの投資は社会に大きな恩恵をもたらします。NTDs対策にかかる総費用(治療と予防の合計)は、流行国における医療費全体のわずか0.1%しかかかりません。NTDs対策への投資は国際社会にとっても、流行国政府にとっても、十分な経済収益性と効果が期待できます。

  • NTDs全体にかかる対策費用は、2015年から2030年の15年間で累計67億5千万米ドルと推計される*1
  • 治療によって個々人が得られる利益(払わなくて済む治療費と働けるようになったことによる収入の合計)の同15年間の累計は3420億米ドルと推計される*1
  • 1990年から2030年にかけて、国際社会がNTDs対策に1米ドル投資し、NTD対策によりNTDの脅威が無くなると、NTDの脅威にさらされている人々は25米ドルの利益を得ることができると報告されている*1

*1:Holmes, King K.; Bertozzi, Stefano; Bloom, Barry R.; Jha, Prabhat. 2017. Disease Control Priorities, Third Edition: Volume 6. Major Infectious Diseases. Washington, DC: World Bank. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/28659

<取り組みが遅れている理由>

  • サーベイランスとマッピングの整備の遅れ
  • 薬剤の不足
  • 遠隔地での医療アクセスの問題
  • スティグマによる対応の遅れ
  • 紛争による遅れ
  • 流行地から非流行地への人の移動の問題
  • 適切な診断ツールの欠如
  • プログラム統合の問題(獣医公衆衛生との統合、Mass Drug Administration (MDA)とWAter, Sanitation and Hygiene(WASH、安全な水と衛生)との統合など)
  • ベクターコントロールにおける耐性の問題
  • あるNTD制圧プログラムが達成された場合の、他のNTD疾患への影響(例えば、リンパ系フィラリア症(LF)の制圧が達成された場合、アルベンダゾールの無償提供が減り土壌伝播寄生虫症(Soil-transmitted helminthiases: STH)プログラムのPreventive Chemotherapy(PC、予防的化学療養)に影響するなど。)
  • 資金不足
  • プログラムの中断(例えば、1960年代にトレポネーマ感染症が制圧間近まで達成されたにもかかわらず、それに満足した政治、ドナー、コミュニティーの意欲が下がり、pre-MDAの流行値に戻ってしまったなど。)

*Integrating neglected tropical diseases into global health and development: fourth WHO report on neglected tropical diseases. Geneva: World Health Organization; 2017.

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